Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2024.12.04 UP

【INTER BEE CINEMA】クリエイターズインタビュー 喜田夏記「コマ撮りアニメーションからライブステージ、空間演出まで。ありとあらゆるデザイン手法を駆使し、この手で世界を作る」

林 永子

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Inter BEE開催60回目を記念して特設された【INTER BEE CINEMA】。エリア内では、実際に建て込んだスタジオセットにて撮影を行うライブショー、著名なゲストを招いたトークセッション、選りすぐりのシネマレンズの装着や解説を行う「レンズバー」といったユニークなコンテンツとともに、映像制作者の交流や若手育成を促進する場を3日間にわたって提供した。

この「クリエイターズインタビュー」では、今後も続く【INTER BEE CINEMA】の取り組みにつなぐべく、映像クリエイターの活動歴とともに、多様な表現活動を行う「人」にフォーカスした記事を掲載していく。

今回は、東京藝術大学大学院在学中よりMVを手がけ、ありとあらゆる手法を網羅する熱量のこもった映像表現が、国内外のフィルムフェスティバル等で高い評価を得てきた喜田夏記氏が登場。そのオリジナリティあふれる創作活動の秘訣に迫る。

プロフィール

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喜田夏記
Natsuki Kida

東京藝術大学 美術学部 デザイン科 大学院修了。在学中より、フリーランス映像ディレクターとして活動を開始、数多くのTV-CM、MVを手掛ける。映像ディレクションのほか、アートディレクション、アニメーション、グラフィック、空間デザイン等、クリエイションは多岐に渡る。
2012年より、NHK Eテレ プチプチ・アニメにてオリジナルのストップモーションアニメーション「リヴ&ベル」を放送しており、本シリーズは アヌシー国際アニメーション映画祭(フランス) TV-Films部門 最優秀作品賞ノミネート、韓国国際アニメーション映画祭(韓国)テレビシリーズ部門グランプリ受賞、バーバンク国際映画祭(アメリカ)セミファイナリスト、アラメダ国際映画祭(アメリカ)ファイナリスト、ベネチア国際短編映画祭(イタリア)セミファイナリスト、SHORT to the Point(ルーマニア)最優秀作品賞受賞ほか、海外での受賞、選出多数。

2004年よりP.I.C.S. management にアーティスト所属。
2017年に 株式会社Legolas inc.を設立。
安室奈美恵「LIVE STYLE 2014」でライブ映像の総合演出を手掛け、その後も同アーティストのライブ映像を4年間担当。L'Arc〜en〜Ciel2018L'ArChristmas では舞台の美術デザイン・演出・映像監督と総合的な演出を手掛ける。
文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品受賞、V&A(ヴィクトリア&アルバート美術館 ロンドン)企画展出展など、海外での発表も多数。
映像作家100人 Japanese Motion Graphic Crestorsに2006~2024まで毎年選出。
MotionPlusDesign2023に日本代表アーティストとして登壇。
東京工芸大学 芸術学部 デザイン学科 教授。

喜田夏記Official Website:https://www.natsukikida.jp
PROFILE:https://www.pics.tokyo/people/natsuki-kida/

すべての工程で自ら手を動かす

――東京藝術大学大学院在学中より映像クリエイターとして活動されていた喜田さんですが、最初にMVを作り始めたきっかけについて教えてください。

学部の卒業制作で作ったストップモーションアニメーション作品を、P.I.C.S.のクリエイティブディレクターの寺井弘典さんが見つけてくださったんです。以降、そのご縁からMVを手掛けるようになりました。

――当初より作画、アニメーション、CG、実写など、ありとあらゆる手法を掛け合わせた映像表現に定評がありました。

確かに、映像を入り口として、アウトプットの表現方法は幅広かったかもしれません。すべて自分で作るスタイルで、絵を描いて、動かして、編集して。業界に入りたての時は、寝る間も惜しんで制作に没頭していました。それができたのは自由度の高いMVだからこそで、入り口がCMだったら適わなかった方法論かもしれません。元々在籍していた藝大のデザイン科の授業自体が、当時は良くも悪くも細分化されていなかったので、絵画、立体造形、デザインなどなど、さまざまなジャンルの課題を一通りこなしていました。その頃から制作のスタンスは、あまり変わっていないのかなと、今となっては思います。

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VAMPS『REVOLUTION』MV

――自ら手を動かすスタイルから、早い段階より作家性の強さを打ち出されていた印象があります。

すべて自分で手を動かして制作したい、という気持ちは強くありました。自主制作のアニメーションは企画から編集まで自分の手が届きますが、仕事で実写を撮る際には各セクションのプロフェッショナルに委ねる分業制となりますよね。それが映像最大の魅力ではありますが、デザインに関わる領域は出来るだけ自分がコントロールしたい。例えばMVを作る時には、その楽曲のCDジャケットのデザインも手がけたり、ディレクターとしてCMを演出している時にも美術セットのデザインを担当したり。自分からアピールしていましたね、「ここは私がデザインしたいです」と。次第に現場でも「喜田監督に演出と合わせて、ジャケットや美術をお願いした方がいいのでは?」という流れになっていきました。

――ご自身で手を動かされるからこその熱量と説得力を感じます。いろいろな手法によって構成されるイメージを、どのようにしてプレゼンテーションしてきたのでしょうか。

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ZOOMでの対談風景

まず、世界観を伝えるためのアートボードを制作することからすべての仕事がスタートします。言葉だけでは伝えきれないイメージを最初に具体化し、可視化することによって、先方の理解が決定的になるという最大の利点があります。その先の話も早くなる。もちろん過程において各分野のプロの力をお借りすることも重要ですが、最初のイメージ作りで、ある程度の具体性を決定して示しています。代理店の方から、企画やプランニングが難航中のプロジェクトに呼ばれて、アートボードのプレゼンテーションで問題を解消する、といったケースも何度かありました。

映像クリエイティブからライブステージのセットデザインへ

――駆け出しの頃の作品で、最も思い出深いMVについて教えてください。

初期でいうと、映像業界全体に名前を覚えてもらうきっかけとなったGLAY『夏音』のMV。当時はとにかくGLAYさんの人気が凄まじく、MTV JAPANやスペースシャワーTVといった音楽専門チャンネルも盛り上がっていた時代で、オンエア回数がとても多かったんです。「あのMVの作者は誰だ?」と話題になり、ありがたいことに名前が知れ渡り、以降アニメーションのMVやCM のオファーをたくさんいただくようになりました。

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GLAY『夏音』MV

――フルアニメーションのアートフィルムとしての注目度も高かったですね。

GLAYのTERUさんはアートやデザインに詳しく、アニメーションの知識も幅広い。事前に私の作品を見て、気に入ってくださり、ご依頼をいただきました。音楽の仕事の一番の醍醐味は、ミュージシャンと映像ディレクターが、クリエイティブに対して共鳴する瞬間。MVに対する具体的なイメージも持たれていて、好きなアニメーション作家の話題などを含めて、密にお話したのを覚えています。その後もライブ映像やMVなど何度もお声がけ頂きました。L'Arc〜en〜Ciel のhydeさんも、VAMPSのMVを演出した時のアートワークを気に入ってくださってから、色々なお仕事でお声がけ頂き、その後、L'Arc〜en〜Cielの再結成コンサートにて、ステージのセットデザインからライブ映像まで広く関わらせていただきました。

――映像作家が、映像のスクリーン以外のステージセットに携わるケースはとても稀です。

最初は、hydeさん率いるVAMPS主催のハロウィンイベントのセットデザインを担当したんです。その前例があるので安心してくださったのか、再結成の大舞台にもお声がけいただきました。hydeさんはステージに関して明確なイメージを持っている方で、それを元にビジュアルプランを練ったり。コンサートのプロである舞台監督とも綿密に話し合い、視覚効果や背景、映像に対するアーティストさんのポジショニングを考えながら、全体のビジュアルの完成度を上げていきました。

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L'Arc-en-Ciel LIVE 2018 L'ArChristmas / live direction+stage design+live stage movie

――セットデザインと同時にスクリーンの映像も制作されたのでしょうか。

L'Arc〜en〜Ciel のライブではセットデザインと映像の両方を演出しました。安室奈美恵さんのライブでは、オープニング映像から楽曲ごとの映像をすべて作っています。その時は、先にセットデザイナーとしてプレゼンもしていたので、映像を含んだ空間演出としてのデザインを提案し、楽曲に合わせたシチュエーションを作り込んでいきました。



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namie amuro LIVE STYLE 2014 / live stage movie+DVD&Blu-ray & CD-Jacket

――ライブDVDのパッケージデザインも喜田さんが手掛けられたのでしょうか。

オープニングから全楽曲の映像を手がけたライブについては、その収録DVD、Blu-rayのパッケージデザインも手掛けています。世界観を合わせたいので、最後のアウトプットまでリーチできて嬉しかったです。映像、グラフィック、セットデザイン、ライブ演出などは、それぞれが別々に機能しているように見えますが、自分にとってはすべて、今までの制作で培ってきた経験から地続きにつながっている世界です。

学生に教えることで改めて自身の表現と向き合い、海外へ

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ALBION GARDEN

――最近のお仕事について教えてください。

近年は空間デザインの領域にも進出していて、ALBIONが初めて海外に出店したコンセプトショップの企画から、ロゴ、ショッパーやグッズ、店舗の内装外装に至るまで、トータルにデザインを手掛けさせていただきました。また、現在はリゾート施設のコンセプトデザインにも着手していて、衣食住環境にもリーチしています。父が建築家なので、その影響もあって、映像も含め空間自体をまるっとデザインする仕事が増えてきましたし、このスタンスが、今の自分には合っているなと。コマ撮り時代から扱うスケールがぐっと大きくなっていますが、複数の分野に跨るデザイン表現にのめり込んでいます。

――なるほど、世界を作るという意味では、コマ撮りもステージも施設も、大きさが違うだけで、同じ舞台といえるかもしれません。箱庭がアリーナになったみたいな。

そうなんです。もともと手掛けていたアニメーションは、まさに現在手掛けている空間デザインのミニチュア版だったんですよね。スケールが大きくなっただけで、デザインの発想自体はあまり変わらない。コマ撮りも、そもそも全部自分でデザインしたいという思いがあったから選んだ手法で、人形もセットも自分で作れるし、最終的に映像作品として完成するゴールまで辿り着ける。あれこれ全部できるから始めたので、その延長線上にある現在の仕事も、モチベーションやスタンスは変わりません。その観点をお仕事でもアピールし続けた結果、現在のようなお声がけをいただく機会が増えたのかもしれません。

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NHK Eテレ プチプチ・アニメ『Liv&Bell』

――最近はまた少し角度が異なるお仕事として、大学で授業を行っていると伺いました。

2年前から東京工芸大学のデザイン学科で映像デザインを教えています。教える仕事は、自分で制作する時やデザイン業務とは使う脳が違うというか、頭の使い分けがすごく難しい。私自身、仕事においては衝動的、感覚的に動くことはあまりなく、あらゆる意味で計画的に動きたいタイプなんです。大学の仕事を始めてからは、時間の使い方をよりシビアにしないと、全てのタスクがこなせなくなりました。教えることは制作と同じ思考ではできないから、同じ日に両方こなすのも無理だなと。大学に行く日は大学業務に集中して、クリエイトする作業は別の日に。絶対に同時にやらないようにスケジューリングしています。

――とても几帳面ですね!

仕事においては几帳面な方だと思います。プライベートでは大雑把ですが。先にスケジュールを決めて、その通りにやらないと気が済まないタイプです。今もスケジューリングは自分でしますし、絶対に守る。集中して、のめり込み過ぎて間に合わないということもない。のめり込む状況も想定できるから、その時間も計算に入れてスケジューリングしておく。

――徹底的なタスクとタイム管理をされていらっしゃるんですね。学生に教える時に大事にしていることはありますか?

自分もクリエイターで、現場を知っている教員として入っているので、なるべく学生をちゃんと社会につなげたいと思っています。先月ゼミの学生を連れて、P.I.C.S.を訪問したのですが、プロデューサーもディレクターも協力的で、学生の作品を見ていただき、感想を伺う課外授業に立ち会ってくださいました。映像を選択してくる学生にとってP.I.C.S.は憧れの会社ですし、映像、デザイン業界とその現場を知る機会を出来るだけ多く作ってあげたいと思っています。

――<INTER BEE CINEMA>の目的のひとつが「若手育成」なので、ぜひ学生のみなさまと一緒に遊びに来ていただきたいです。

連れて行きたいです。学生にとって勉強になりますし、いい経験になります。ちょうどゼミの4年生は卒業制作で、大学にあるスタジオで撮影技術を学ばせたりするのですが、機材やプロが集まっている場にいくと視野が広がると思います。

――最後に、今後のビジョンについて教えてください。

ここ数年の間に仕事のスタンスも変化し、自身の内面と向き合うことが多くなりました。昨年はMotionPlusDesign2023に登壇し、これまでの活動を振り返る良い機会も与えていただきました。今の自分にとって必要なアウトプットは、広告的なアプローチよりも、作品としての表現なのかなと感じています。NHK Eテレ プチプチアニメにて10年以上放送しているコマ撮りアニメーション作品『Liv & Bell』シリーズは、積極的に海外の映画祭にエントリーしてきました。幸いいくつかのフェスティバルで受賞やノミネートが続き、アヌシー国際アニメーション映画祭にもノミネートしていただいて、国外へ挑戦する自信になりました。私の作品は、なぜか日本よりも、アメリカやヨーロッパでの方が、圧倒的に反応が良い。現在は、新しい短編映像の企画に着手しているのですが、完成したら海外に向けて発表していこうと考えています。

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MotionPlusDesign2023に登壇
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