Inter BEE 2025 幕張メッセ:11月19日(水)~21日(金)

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Event Report 2025.04.10 UP

【Inter BEE CURATION】業界最注目のテレビ連続ドラマイベント「シリーズ・マニア」2025現地取材レポート

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子

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テレビ連続ドラマに特化したイベントが「シリーズ・マニア」だ。一般向けフェスティバルとプロ向けフォーラムなどで構成され、映像業界が注目するイベントの1つにある。開催場所はフランス北部のベルギー国境に隣接する都市リール。地域と連繫しながら今年は2025年3月21日から28日の8日間にわたって行われた。フェスティバルの来場者数は10万人を超え、フォーラムには75カ国から5000人の業界関係者が参加した。現地取材した「シリーズ・マニア2025」をレポートする。

昨年より1万人増加、若年層の参加も目立つ

フェスティバルイベントから華々しく「シリーズ・マニア2025」は始まった。フランス第4の都市であるリールを舞台に、地域で盛り上げるイベントとして印象づける。幸い天気にも恵まれ、中世の面影が残る街中を歩いていると、シリーズ・マニアのポスターが次々と目に入り、石畳にまで色とりどりのロゴステッカーがデザインされていることに気づく。7回目を数える今年の来場者は10万8000人を超え、昨年より1万人以上増加したことが主催者から発表された。

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フェスティバルはリールの街中に点在する9か所の会場で行われ、世界中から参加した作品上映会をはじめ、マスタークラスやトークイベント、ファン向け展示、レッドカーペット、プレスカンファレンスなどが行われた。フランスを代表する俳優たちだけでなく、ハリウッド女優のアマンダ・セイフライドやクリスティーナ・ヘンドリックス、Netflix人気シリーズ『ブラック・ミラー』のショーランナー、チャーリー・ブッカーも来場した。

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今年の展示イベントは「Forever 90‘s」と題し、『フレンズ』や『ツイン・ピークス』など90年代のヒットしたテレビ連続ドラマにフォーカスしたものだった。テレビ連続ドラマに対する熱量の原点を見直す意図がありそうだ。実際に会場からは熱気が感じられた。

メインの上映会も会場前に長蛇の列が作られるほど、盛り上がりをみせた。コンペティションやセレクションなど上映された作品数は50以上。連続ドラマが中心だが、アニメも含まれた。学生の街と言われるだけあり、夜の回は多くの若者の観客で埋め尽くされた。


注目の国際コンペティションでは最優秀賞にスペインのストリーミングサービスMovistar Plus+と独仏共同テレビ局ARTEの共同制作ドラマ『QUERER』が受賞した。性の問題をはらんだ家族ドラマが描かれた作品で、夫を告発し、成人した2人の息子たちと向き合う妻ミレン(ナゴレ・アランブル)の演技が光った。

バイヤー500人招待、NHK大河ドラマセッションも

業界関係者にとって、フォーラムイベントも見逃せないマーケットになりつつある。3月25日から27日までの3日間開催され、75カ国から5000人の業界関係者が会場のリール・グランパレに集結し、昨年より2割増の参加者を集めた。流通マーケットの機能を強化するため、新設されたバイヤー特別企画に500人のバイヤーを招待した効果が表れたと言える。日本からはWOWOWのバイヤーが参加していた。

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会場には各国のナショナルブースや大手テレビ局や制作スタジオのブースが色とりどりに並んだ。欧州色が強いものの、日本テレビが日本で唯一出展を果たし、アジアでは他、韓国と台湾がナショナルブースを展開した。どのブースも商談テーブルが賑わっていたことが何より印象的だった。テレビの黄金期は過ぎ去り、動画配信サービスは加入者獲得モードから維持モードへと移行した厳しい時に今はあるが、テレビ連続ドラマの新たな開発や流通のチャンスを探る姿があった。日本からはフジテレビの国際共同制作プロデューサーの参加もあった。

50以上の各種セッションも企画された。全体のテーマは「ポスト・ピークTV:課題の時代。AI、資金調達、視聴者...」というもの。ワーナー・ブラザース・ディスカバリー国際プレジデントのゲルハルト・ツァイラー氏のキーノートやNetflix、Amazonプライムビデオによるコンテンツ戦略トーク、マーケットトレンドセッションなど流通マーケットに欠かせない内容が盛り込まれるなか、日本で唯一NHKによる「大河ドラマ」と国際共同制作にテーマにしたセッションも組まれた。

このNHKセッションにはNHKおよびNEP所属のドラマプロデューサー6人が登壇し、現在放送中の『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜』や話題を呼んだ『光る君へ』をはじめ、ドイツZDFスタジオと開発中の第二次世界大戦を舞台にした国際共同制作ドラマの取り組みなどが語られた。

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国際共同制作はドラマ業界にとって注目株でもある。資金調達を目的に企画される「コープロ(共同制作)・ピッチング」はシリーズ・マニアの目玉企画の1つで、今年は72か国から406件の応募があったという。選ばれた15のプロジェクトのピッチがグランドシアターで行われ、最優秀企画賞をフランスと日本の独立系プロデューサーが共同開発中の『東京クラッシュ』が受賞し、賞金の5万ユーロ(約800万円)を獲得した。シリーズ・マニアの企画ピッチは毎年、成立させるケースが多いと聞く。マーケットトレンドのコメディとアジアがキーワードにある作品として今後の成立が期待される。

映画やドキュメンタリーの大規模イベントは国内外で行われているが、テレビ連続ドラマに特化したものは珍しい。オー=ド=フランス地域圏やフランス国立映画センターが支援し、ブランドパートナーにフランス大手保険会社クレディ・ミュチュエル、公式パートナーにフランステレビジョンやNetflixなどが並び、シリーズ・マニアの開催を支えている。創設者兼ゼネラルディレクターであるローレンス・ハーシュバーグ氏は「私たちは世界に開かれた作品群に焦点を当てている」と話す。ファンダムとビジネスの両面からテレビ連続ドラマの可能性と本質を追求したイベントを目指していることが確かに伝わってきた。

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