Inter BEE 2021

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Special 2023.06.01 UP

2030年、日本の動画情報最大のインフラを目指す!〜TVer若生社長インタビュー〜

境 治 Inter BEE 編集部

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コロナを境に、人々のメディア生活は激変した。放送局にとって肝心要の「放送」の視聴減少は止まらない。一方でテレビ番組の魅力は失われたわけではなく、様々な形態で愛され見られているのも間違いない。そうなると、配信でテレビ番組を見てもらうことが今後の放送業界の鍵となる。2015年に誕生した見逃し配信サービスTVerは、プレゼントキャスト社がテレビ局から委託されて運営されたいたのが、2020年にキー局が大きく出資し、株式会社TVerが誕生した。そして2022年に2代目の社長として就任したのが、フジテレビにいた若生伸子氏だった。それから一年、TVerは放送業界の期待以上に成長し、最近は視聴率と同じくらいTVerでの再生数が競われるようになった。若生社長に怒涛の一年を振り返ってもらい、また今後のビジョンをお聞きした。語ってくれたのは、今後の方向性についての大いなる悩みと、業界の未来を担う力強いメッセージ。放送業界だけでなく広くエンタメ業界の皆さんにとっても興味深い内容となった。

フジテレビ時代に予感していた配信ビジネスと営業との関わり

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--フジテレビでのご経歴を伺っていいでしょうか
最初の一年は秘書室、その後は第3制作部というワイドショーやドキュメンタリーなどを担当する部署に5年在籍しました。レポーターの東海林のり子さんと取材に行ったり、カメラさんやVEさんとの3人旅も良い経験です。その後、もう一度秘書室に戻って随行秘書を務めました。

--資料によるとその後は営業に異動されたと。社内の方に聞くと相当実績を上げられたそうですね。ただ配信とはあまり関係がなかったのでしょうか?
確かに配信事業に直接携わるセクションにいたことはないです。ただ、営業部門ではセールス以外に新しい売り方の開発もやりましたし、その中で今後配信ビジネスが営業活動や放送収入に関わってくる可能性があることは予感していました。その後は広報局長を任じられましたが、番組のPRはすでにSNS中心に移ってました。広告メディアとして「フジテレビュー」を始めたり、宣伝に当時のCCI(現在は合併してCARTA)チームに入ってもらったのもその頃です。
TVerに来る前の半年は事業局に異動になりましたが、ちょうどコロナが流行りだした頃でリアルイベントを取り巻く環境が厳しくなる一方、配信イベントが伸びていったのでそのセールスにも携わりました。その後ご縁があって、TVerに出向させていただくことになったんですが、結果的にはそれぞれの部署での経験が生きる場所に来ている気がします。

--なるほど営業の経験もすごく大事だったし、広報や事業でもデジタルのことを経験されていたのですね

この一年で視聴率だけでなくTVerでの再生数も番組の評価になった

--社長に就任してほぼ1年、振り返っていかがでしょうか
私がこちらに赴任した時はTVerアプリのリニューアル、そしてリアルタイム配信のスタート、 それに伴うTVer IDのログイン機能もスタートしたすごく大きな転換期でした。上期はリニューアルの改修に時間は取られたものの、「キリンチャレンジカップ」のようなスポーツ中継の配信(SPLIVE)が好評でした。そんな中、安倍元首相の銃撃事件は痛ましい事件でしたが、放送局と連携して事件直後の各社の報道番組をTVerでリアルタイム配信しました。それがリアルタイムの大きな1歩になったことも印象深い出来事でした。そのきっかけがあのような痛ましい事件だったのは残念です。

--リアルタイム配信の意義や有効性の模範例になりましたね
ただやはり正式にリアルタイム配信を強くご認識いただいたのは秋の日本シリーズでした。リアルタイム配信ではカニバリの問題をどうしても言われてしまいがちですが、日本シリーズは帰宅途中にTVerで見る、家に帰ったら地上波のテレビで続きをきちんと見ていただく、そういう連携ができることを示せた良い例だと思います。

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--去年の1年間で放送局の人たちがTVerを前向きに受け止めている空気がはっきり出てきました
下期ではフジテレビのドラマ『silent』が10月からスタートしました。このドラマが「地上波だけだったらどうだっただろう」とプロデューサー自らおっしゃっていました。作品によっては地上波だけでは埋もれてしまうケースも多くあります。『silent』は配信から火がついて。もちろんその裏にはSNSでのファンの皆さんのご協力があったものとは思っていますけれど。『silent』そして10月のドラマ全体のおかげで盛り上がりました。そこであらためてTVerの魅力や使い勝手の良さが認知されたと思っています。ウィズコロナで生活環境も落ち着き出して、もしかしたらTVerの成長が止まるかもしれないのではと心配するご意見もあったのですが、
実際には10月の月間MUB(月間ユニークブラウザ数)は2500万を記録しました。
年末年始、そして年明けの「箱根駅伝」「高校サッカー」などが功を奏して、1月のMUBは2700万を超え、3月の月間再生数は約3億回、MUBは2700万強を獲得し、TVer の認知度もさらに安定してきたと思っております。
秋ぐらいからでしょうか、放送局が視聴率何%、個人何%と壁に張り出す中に、配信の数字も入るようになりました。
大事なことは、放送局の皆さんがTVerをカニバる対象ではなく、自分たちのコンテンツの起爆剤としてうまく活用されるようになったこと。それを通じてテレビにあるものはほとんどTVerにあると言える環境に近づきつつあることです。

ローカル局の番組のすでに70局がレギュラー配信、今後は直接番組を上げる仕組みも

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--次にローカル局との関係についても伺いたいのですが
ローカル局のコンテンツについては、担当の須賀取締役に任せますが、その前に先に少しだけお話ししておきたいことがあります。今ドラマの話ばかりしましたが、これから先TVerをもっと拡大していくためには足りない部分がまだあります。報道や情報です。報道は即時性が必要なので、TVerでどういう形なら成り立つのか課題です。でも、 情報系はTVerに合う形があるはずで、フジテレビの朝の情報番組のコンパクトバージョンを今試しに配信しています。注目すべきなのは、ユーザーにとって必要な情報をどう見せるかだと思います。そこでローカル局さんのコンテンツが大きなカードになってくるであろうと考えています。よりニッチであるほどユーザーにとっては魅力的。そういったものをローカル局さんはたくさんお持ちなのではないでしょうか。これまでより一層、ローカル局さんとの関係を深めるために、須賀取締役が全国を回っております。

須賀久彌氏(TVer取締役)「ローカル局のコンテンツについてはTVerが会社になる前から、キー局が各系列ごとに引き受けて配信しています。TVerはキー局だけのものではないんですよと説明してじわじわ増えていました。さらには、TVerに直接アップロードできる選択肢も増やそうと準備しています。一方で、番組を配信すると視聴者が配信で番組を見てしまって、そちらを見て自分たちの放送でを見てくれなくなるんじゃないか。そんな風に不安を感じるになってる人たちもいらっしゃるので、直接お話して回っています。ただ、私が行くまでもなく、TVerのことをポジティブに思ってる方たちも多く、TVerにもっと番組を上げやすくしてほしいとか、もっとTVerで見てもらうにはどうすればいいかなどと質問してくださる方もいらっしゃる。現状ですでに70局ぐらいがレギュラーで番組配信してくださってます。」

直行直帰から滞留へ、さらに日本最大のインフラを目指す

--別のインタビュー記事で「直行直帰から滞留へ」というお話を読みました。この「滞留」についてお話を聞きたいのですが
キャッチアップサービスとしてドラマを中心に伸びてきましたが、それだけだといずれ第1段階の踊り場を迎えてしまう。じゃあどうしたらいいかを考えた時に、 TVerが特定の目的がなくても楽しめる環境になることじゃないのかなと考えています。それが”滞留”の意味です。

そのためにはいろんな考え方があると思います。ユーザー向けにカスタマイズした提案をするという、配信で当たり前の考え方もあると思いますが、他にもいろいろあります。デバイスとサービスと2つに分けて考えた方がわかりやすい。今のように気候が良くなってきて、外で見るならタブレットも含めたスマートデバイスの方が見やすい環境でしょう。コンテンツによっては1人でお部屋で見たかったり。あるいは共視聴と言われる何人かで大きなコネクテッドTVの映像を見たいと思うことも。 デバイスに合わせた、ユーザーにとってわかりやすいUI、UXの構築を考えねばなりません。

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一方でTVerというサービスは、放送局とやっていくことが前提です。コネクテッドTVの世界は絶対に避けて通れません。そこでの滞留を考えたサービスを目指すために、コンテンツをさらに充実できるのかどうか。現在のリアルタイム配信はGP帯が中心ですが、時間帯は拡張できるのか。もし朝だけ1時間半くらい拡張できたとして、昼間のいわゆるローカルタイムと言われている時間帯はどうするのか。ほったらかしだと宝の持ち腐れになってしまう。だとすると、FASTチャンネルをそこに持ってくるべきなのか。報道はどうするか、さらにローカルの情報はどうするのか。そういったことを1つ1つロードマップに落とし込んで検討していくしかないと考えています。ベースにあるのは、ライブラリー。国会図書館と言ったりもするのですが、テレビにあるものはすべからくTVerにある、テレビから派生するものはTVerを通して繋がることができる。そんな状態をできるだけ早く目指したい。サービスが始まって、もうすぐ10年を迎えます。それまでの間に何をつくっていけるのか、日々考えているところです。

--現状の放送収入の落ち込みを踏まえると、コネクテッドTVの領域は重視されていますか?
TVerにとってコネクテッドTVは切っても切れない領域で、どれだけ占有率を取れるかが放送業界の命運を分けると言っても過言ではないでしょう。そのためにデバイスでのユーザビリティを含めテレビの補完ができるかが大事になります。そして最終的に何を目指すか。2030年、TVerは日本の動画情報における最大のインフラとなりたいと考えています。
その間にいろんなことを模索していきたいと思っています。もしかしたら別のビジネスの芽があるかもしれない。でも、最終的にTVerがたどり着くべきところはそこなんじゃないか、と今は思っています。

--大変力強く頼もしいお言葉、ありがとうございます。このメッセージを見て、TVerと一緒に未来を切り開こうと思った放送業界の方も多いんじゃないでしょうか。TVerの今年のますますの発展に期待してます。今日はどうもありがとうございました。

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