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Special 2022.04.14 UP

【Inter BEE CURATION】韓国大統領選 選挙番組もエンターテインメント

安 暎姫 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年5月号からの転載で、安 暎姫氏(アン・ヨンヒ氏)から韓国大統領選と選挙 × エンタメに関する記事となります。ぜひお読みください。

コロナ禍での大統領選挙

 韓国では、5年に一度大統領選挙がある。ちょうど今年の3月9日、大統領選挙が行われた。
 韓国の大統領選挙は直接選挙である。特に、今年は本命の候補がいないと嘆く人が多く、誰が当選するのか蓋を開けてみなければわからない状態であった。
 大統領選挙は、不在者のための期日前投票、そして期日投票があり、本来なら午後6時で締め切り、開票をする。だが、今年は新型コロナウイルスの感染者が急増したため、感染者に関しては別途、午後6時から7時半まで感染者だけの投票時間が決まっていた。
 これより前、2020年4月に国会議員を選出する総選挙が行われた際は、新型コロナの流行は始まっていたが、最近のように拡散してはいなかったので、徹底してソーシャル・ディスタンスを取り、記票所のなかではビニール手袋が用意されそれを着用しての投票であった。今年のように感染者のための特別な計らいはなく、期日前投票をするか、投票を諦めるしかなかった。
 KBSの出口調査によると、年代別、性別、職業別、住宅所持いかんによっても支持する候補が異なっていた。
 大統領候補は、今年14人とこれまでになく候補が多かったが、本命は与党候補で革新系のイ・ジェミョン(李在明:共に民主党)氏と保守系のユン・ソクヨル(尹錫悦:国民の力党)氏の両人であった。
 結局二人の競り合いの末、今回ユン・ソクヨル氏が大統領に当選した。当選しても日本のようにダルマさんの目に墨を入れることはしないで、自宅から出て国会へ出向き、自分を応援してくれた選挙団員や党員たちを労い、国民に向けて当選演説を簡単に述べた。

エンタメ化の思惑

 その中で一番面白い切り口で開票の途中経過を放送していたのがSBSのニュース番組であった。10日、ニールセンコリア(視聴率調査会社)によると、各キー局が放送した開票番組のなかで、最高視聴率はKBS(12.8%)で1位だったが、20歳から49歳までの人たちを対象にした視聴率ではSBSが2.9%を記録し1位となった。
 20歳から49歳の視聴者の目を奪ったSBSの開票番組は、ほかの局のように政治家や政治評論家をパネリストとして並べて話し合う形ではなく、目を楽しませてくれるものであった。
 開票番組は、結局どこどこの地域で何パーセント開票され、どの候補が何パーセントの票を得たかというだけの内容だ。評論家たちもそれを見ながら、この地域ではうんぬんとか、どの候補がこんな公約を出しているからここで得票が多くなるなどの話をするだけだ。
 それなら、日本のNHKに当たるKBS(韓国放送公社)が正確な数字を示し、確実な予想も立てられる。だから、全体的な視聴率は圧倒的にKBSが高かった。反対に、1990年代に創設されたSBSは、他の局に比べ歴史も浅く、開票番組では万年ビリの視聴率であるため、奇抜なほうへと方向転換したわけだ。
 まず、大本命の二人の候補をはじめ、3位、4位までの候補を「3Dスキャン」撮影し、3Dモデリングと映像資料を活用して表現した。こういった工程は、かなり前から準備していたので、投票日間近になって撤退したアン・チョルス候補も映像に含まれていた。
 しかし、投票率などは当日のリアルタイムの数字であったため、アン・チョルス候補が映るたび、辞退した候補という説明が付いた。
 内容は、本命の二人の候補が映画『マッドマックス』を連想させるような砂漠の中で車に乗って突っ走り、その後を3位、4位の候補がバイクに乗って追いかける。または、スピードスケーターに扮して競争したり、アイドルの歌に合わせてダンスをする。
 投票間近まで3位と目されていたアン・チョルス候補は撤退していたので、同候補が乗っているバイクに「候補辞退」という紙が飛んできて貼り付くなど、細かいところまで落としどころが考えられている。
 開票番組をエンタメとして扱ったのには視聴率稼ぎ以外にもう一つの思惑がある。それは、ユーチューブでの再生回数を狙うというものだ。さらに、TikTokやShortsでも再生回数を稼ぐことだ。
 近年、SBSはほかの地上波と同じように広告収入の減少、Netflixの台頭などによる視聴率の減少などで苦境に立たされていた。しかし、Netflixにコンテンツを販売したり、以前制作したコンテンツを積極的にユーチューブに投稿したりすることで、2021年第3四半期の売上高は7878億ウォン(10ウォン=約1円:前年対比31.4%増)、営業り益1811億ウォン(前年対比489.2%増)を計上した。
 SBSのこうした戦略は功を奏し、3月10日現在、同開票番組はユーチューブで100万回再生を達成している。

■ライター紹介
アン・ヨンヒ ソウル在住。日韓の会議通訳を務めながら、英語をはじめとする多国語の通訳・翻訳会社を経営している。ネットマガジンの『JBpress』で韓国文化について連載中。

GALACとは
放送批評の専門誌。テレビやラジオに関わるジャーナルな特集を組み、優秀番組を顕彰するギャラクシー賞の動向を伝え、多彩な連載で放送メディアと放送批評の今を伝えます。発行日:毎月6日、発売:KADOKAWA、プリント版、電子版


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