Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2024.12.05 UP

【INTER BEE CINEMA】クリエイターズインタビュー 志村知晴「演出家と振付師を兼業する唯一無二の創作スタイル。画面に映る人の強さをPOPに引き出すフェティッシュな映像表現」

林 永子

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Inter BEE開催60回目を記念して特設された【INTER BEE CINEMA】。エリア内では、実際に建て込んだスタジオセットにて撮影を行うライブショー、著名なゲストを招いたトークセッション、選りすぐりのシネマレンズの装着や解説を行う「レンズバー」といったユニークなコンテンツとともに、映像制作者の交流や若手育成を促進する場を3日間にわたって提供した。

この「クリエイターズインタビュー」では、今後も続く【INTER BEE CINEMA】の取り組みにつなぐべく、映像クリエイターのオリジナリティ溢れる活動歴とともに、多様な表現活動を行う「人」にフォーカスした記事を掲載していく。

今回のゲストは、演出家と振付師を兼業する、唯一無二の創作スタイルが人気の志村知晴氏。学生時代からダンスビデオに着手しながら、20歳の頃に人気映像ディレクター児玉裕一監督に師事し、MVの制作現場で振付の仕事を始めたという異例のキャリアを持つ。その経緯について、またご自身が「フェティッシュ」と称されるMV表現について、それぞれに対峙する思考や心情を交えてお話を伺った。

プロフィール

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志村知晴
Chiharu Shimura

1993年生まれ
武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業
vivision 代表 児玉裕一に師事
2020年よりGLASSLOFTに参加
コンテンポラリーダンス就学のため渡欧・仏
映像ディレクター・振付師双方として活動。
RAW ( 生 ) と POP( グラフィカル ) のテイストを基調にポップからシュールにクールまで演出する。

自分にとっての映像のコンテクストは身体表現

――演出と振付、その両軸が生まれた経歴から教えてください。

まず、武蔵野美術大学映像学科に在学していた18歳の頃に「ダンスビデオ」を制作し、「イメージフォーラム・フェスティバル」に入選した経験があります。同時期に、振付のコンペティションに応募して通過し、「吾妻橋ダンスクロッシング」「FT TOKYO」などのダンスフェスティバルでは出演者としてパフォーマンスを行いました。その後、映像ディレクターの児玉裕一監督に師事しました。

――かなり早い段階で「ダンスビデオ」を制作していたんですね。もともとダンスがお好きだったのでしょうか。

以前、劇団四季のミュージカルを始めて見た時に、「この中に職業がありそうだ」と直感したんです。でも、美術でも、照明でも、衣装でも、俳優でもない……。見終わって、「この空間が終わらなければいいのに」と考えるうちに「そうだ、演出があるぞ」と。そこからは、ダンスと舞台が好きなことを自覚しつつ、美大の映像学科に入学して、周囲の雰囲気に乗せられて映画の勉強をしたのですが、びっくりすることに、往年の長編映画が、傑作として知られている名画が、見られない(笑)。

――映画が見られない! ダンスやミュージカルには惹かれるのに。

いや、理性ではわかるんです。ただ、大絶賛とはならない。せっかく映像学科に入ったのにやばいぞ!と思い、今度は空間デザイン学科の先輩の紹介で、演劇の舞台制作会社にインターンとして参加しました。そこには本やDVDがたくさんあり、家に持ち帰って朝から晩まで見ていたところ、人物がダンスをするだけのビデオが流れたんです。特に感情が伴う表現でもなければ、起承転結もない。それが面白くて、一晩中繰り返し見ていた時に、ダンス映像が自分にとってとてもしっくりくると腑に落ちたんです。

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――映画がしっくりこなかったからこそ、身体表現に辿り着いた。

生の演劇に惹かれたけど、映像メディアにも惹かれているから、その中に介在して視覚伝達を行うためには、身体表現の方が自分は均整が取れると考えて、「ダンスビデオ」に行き着いた。先にそのワードに惹かれたというよりは、感覚的にずれていた人がやっと見つけた場所が「ダンスビデオ」だった。後々しっくり来たんです。

――まさに天啓を得た感覚ですね。芝居や演技そのものにも違和感があったのでしょうか。

誰かが頭の中で描いた空想の31歳を演じるとして。たとえフィクションでも、その人(役)には1分1秒の積み重ねが31年間分あるはずじゃないですか。それを想像して、演じる、という動向の不確定さに疑いを持っていたんです。31年間、生きた自分の体から生まれる感情でさえも信頼できないのに、なぜ、演じられるのか。例えば怒りは、怒りの感情が発生した後に体が反応する。演技は、怒るという用意された未来のアクションに向けて、体を寄せていく。その意味が、当時はわからなかった。ダンスはオンタイムの31年の布石です。他方、俳優さんは内面の自己をどんどん消して、架空の31歳の役に身を投じ続ける。その拮抗する両者がクロスする場が身体である、と後から理解して、ようやく辻褄が合いました。最後に伏線が回収されるMVみたい(笑)。

初めてのMV撮影の感想は「天職」

――21歳の時に1年間の留学を経験されています。どんな勉強をされたのでしょうか。

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主にダンスのメソッドを勉強しました。授業では、まずボードが出てきて、この振付は、こんな考え方で、こう動く、という座学を受けるんです。フィロソフィーを学んでから、動きましょうと。動きも言語でディベートしながらつけていく。日本のようにアブストラクトではなく、理念がある。ちょうどロジックが伴わない動きに対して、扱いあぐねていた時期だったので、良い経験となりましたし、今でも影響があると思います。

――その学びが帰国後の振付のお仕事に生かされた。

留学以前より不思議と振付の仕事をいただけていたのですが、帰国後もありがたいことにご依頼をいただき、現在まで途切れずに続いています。おかげさまで、その一歩一歩のステップを着実に歩んで今に至ります。

――ディレクターの仕事はいつから始めたのでしょうか。

24歳。それまでは作品をつくりつつも、今ほどの演出の仕事はない時期でした。そして自分のリールを、失礼だったら申し訳ないと思いながら送っていたNakamuraEmiさんからご返信をいただいたんです。

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『かかってこいよ』MV

――嬉しい反応ですね!

びっくりしました。ここでしっかりとしたダンスビデオを撮るために、ヨーロッパの気になるダンサーを呼んで、さらに優秀な撮影チームを120%の布陣で自らスタッフィングしました。当日は1カットも妥協せず、朝4時半まで撮影しました。カットをかける予定だったラストシーンで、状況を考慮してカットをかけずにいたら、カメラが主人公の背中を追いかけて行ってくれて、スタッフ全員が「イケイケ! そのまま行け!」と応援してくれました。みなさん大御所なのにすごい熱量で、24歳の駆け出しの自分が本気で取り組めば、真剣に向き合ってくれるんだと感動しました。その時にも、またずれていた何かがカチッとはまり、「天職だ」と思いました。それが演出家になった区切りのタイミングです。

パフォーマーとしての自分を俯瞰で見つめる

――これまで手がけられたMVの中で、思い出深い作品について教えてください。

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赤い公園『Highway Cabriolet』MV

私のMVは、画面に映る人の強さをPOPに引き出すという向き合い方に凝る性分であるという意味で、フェティッシュな表現が多いと思います。自分の中のフェティッシュな趣向性を撮るのではなく、アーティストや楽曲によって、右に行ったり、左に行ったりしながら、待ち合わせする場所をいつも探しています。その中でも、思い出深いのは3つ。1つは、赤い公園の一連のMVたち。1人のアーティストと1人のディレクターがタッグを組み、ずっとMVを撮り続けるというケースは先輩方もずっとやってきた王道の方法論ですが、そういう意味で赤い公園は同士ができた感覚。ともに歴史を歩めるアーティストとの出会いが嬉しかったですし、全作品、表現としてもチャレンジングな挑戦ができています。自分が「これがいい」と思う枠に収まらず、かえって枠が取り払われていく。ファンの方が、赤い公園のリブランディングの監督として認識してくれたからか、自分がいちアーティストとして認められた感覚が強くて残っています。

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MONDO GROSSO『CRYPT [Vocal : PORIN (Awesome City Club)]』MV
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水曜日のカンパネラ『金剛力士像』MV

2つ目は、菊地凛子さん出演のMONDO GROSSO『CRYPT [Vocal : PORIN (Awesome City Club)]』MV。この曲は、自分の心の琴線にとても近く、フェティッシュな部分を両足から踏見込んで出せました。コロナ後、まだクリエイションしていていいのかと自問自答する時期もありましたが、この作品を機に、この方向であっているという感覚が戻って来ました。最後3つ目は、水曜日のカンパネラ『金剛力士像』MV。メンバーの1人が私なりのフェティッシュを評価してくださっていたので、170%ぐらいの自由度でつくれました。

――現在は、どんな作品を撮りたいですか?

MVは、敢えて何も考えずに向き合えるアーティストを撮りたいですね。広告だったら海外。実際に割とインターナショナルな案件が増えてきています。が、実は最近、楽しみにしていた案件がなくなってしまって、心が折れています(笑)。映像制作におけるメンタルのお話は、今、私の中で重要なトピックスです。ダメージをくらってしまって(笑)。スケジュールの押さえなどもう少し整備したルールもあると嬉しいと、たまに思います。

――まさに<INTER BEE CINEMA>では、ルールや働き方を再考する枠があります。若い世代のためにも、早急に働きかけたいと思います。最後に、今後の予定をお聞かせください。

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11月に韓国で、振付兼パフォーマとしてMVに出演します。また、メディアだけでない他領域への振り付けのお仕事も始めています。広告的な服の見せ方ではなく、アートとして、衣服で彫刻のような造形をつくる。その形に身体がフィットする。最近はパフォーマーとして原点回帰する機会があるので、自分を俯瞰して見つめ直したいですね。この先どうなるか、どんな伏線回収につながるのか。今は、丸腰で表現することに、喜びを感じています。そして映像業界の中での自分のフェティッシュな色、看板も大事に育てながら、表現と仕事の2つのセクションを同時に進行してきたいです。

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