Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

本年の来場事前登録が完了していないか、ログイン有効期限が切れています。

2024年来場事前登録はこちら 2024年来場事前登録済みの場合はこちら

本年の来場事前登録のアンケート回答が済んでいません。アンケートのご回答をお願いします。

アンケートに回答する
キャプション
Industry Curation 2025.01.14 UP

【Inter BEE CURATION】ドイツ連立政権の崩壊劇 メディア報道が引き金に

稲木せつ子 GALAC

IMG

携帯画面の速報が流れを変えた

米大統領選挙の翌日、独メディアは大差で再選を果たしたトランプ氏の勝利を凶報として伝えた。ウクライナ支援や貿易で、同氏が欧州に不利な政策の実施を公言していたからだ。

 だが、この日のショルツ首相(社会民主党)は、与党内の意見調整に追われていた。夏に閣議合意した2025年度予算案は、不況による歳入減で大幅な変更を余儀なくされており、どの支出を削減するかで、3党による連立政権内の衝突が激しくなっていたのだ。週明けから4回目となる交渉を前に、独メディアは「トランプ復帰を前に、連立政権は団結できるのか、決裂か」と書き立てた。

 ショルツ首相は夕方から連立与党の幹部を官邸に招き、大詰めの交渉に臨んだ。地元メディアによると、首相は、ウクライナ支援や不況対策は危急な措置なので、「緊急時予算扱いにすれば支出カットを回避できる」と主張し、連立パートナーに賛同を求めた。緑の党は同意したが、リントナー財務大臣(自由民主党党首)は、財政赤字の割合が憲法規定を超えることに難色を示し、「応じなければ私を解任するのか」と迫ったという。会議室内の緊張が一気に高まり、ここで連立協議は一旦、中断された。 

 散会後まもなく、各人のスマホにタブロイド紙『ビルト』の速報が飛び込んだ。太文字で、「連立崩壊 リントナーがショルツに解散総選挙を提案!」と、書かれていた。

 3党の協議は続く予定だったので、「連立崩壊」は誤報だが、続いて暴露された交渉内容は的を射たものだった。リントナー氏は、トランプ氏の再選で独経済の回復が急務になったとし、年初に総選挙を実施して、秩序と威厳の伴った新政府を誕生させるべきだと主張。引き換えに予算以外の法案で協力すると申し出た。同紙は、解散を求めた理由として、リントナー氏が「3党での連立を続けるには共通基盤が足りない」と話していると報じた。

 ショルツ氏は、交渉途中に一方的な情報がリークされたと激怒。ネタ元はリントナー氏だとし、即刻、同財務大臣の解任を発表。記者会見ではこれまでにないほど感情的にリントナー氏の「裏切り行為」を非難し、連立崩壊の張本人だと責めたてた。これに反発した自由民主党の閣僚が揃って辞任を表明し、速報から3時間たらずで、「誤報」は「事実」となったのである。

政治空白を埋めるのは極右か?

翌日、大統領府で新閣僚の任命式が執り行われ、ショルツ政権は少数与党(社会民主党と緑の党)となった。首相は、年初に信任案を議会に提出し、3月末までに総選挙を実施する道筋を作ると確約したが、野党は口を揃えて議会の早期解散を要求。1月末にトランプ政権が発足することを強く意識しての動きだ。ドイツで連邦議会の解散権を持っているのは首相のみで、日本のように野党が不信任案を通して解散総選挙に持ち込めない。その一方、少数与党となったショルツ内閣は、野党協力がなければ法案を通せないため、最大野党(キリスト教民主・社会同盟)と折衝し、政治日程を早めることで合意した。12月に首相信任案の否決を受けた形で議会は解散へ。総選挙が2月23日に行われる目処が立った途端、各党は一気に「選挙戦モード」に切り変わった。

 歴史に「もしも」は禁句だが、ビルト紙の速報がなければ、ショルツ氏は幕引きのタイミングを3党合意のもとに決められたのでは? そうすれば、より多くの法案を可決して「実績」を残すことができたのではないかと悔やまれる。

 というのも、ドイツでは州レベルの選挙で極右政党(ドイツの選択肢=AfD)が大躍進しているからだ。9月にドイツ東部の2州で行われた選挙でAfDの得票率が3割を超え、チューリンゲン州では初めて第一政党に躍り出た。最新の世論調査によると、AfDの支持率(20%)は、ショルツ氏の社会民主党(17%)を上回り、最大野党のキリスト教民主・社会同盟(32%)に次ぐ第2政党となっている。

 AfDは国政での勢力拡大を目指し、11月末、総選挙に向けてマニフェストの草案をいち早く公表した。難民手当の削減やロシア制裁の解除など、これまでの移民排斥・親露路線に加えEUやユーロ圏からの離脱や、ドイツ人の出生率を高めるために妊娠中絶をより限定的にするといった政策が盛り込まれており、ナショナリズム傾向がさらに強まっている。

 ロシアのウクライナ侵攻以降、景気が大幅に後退したドイツでは、インフレによる生活苦に喘ぐ国民の不満が高まっている。ショルツ政権の支持率も侵攻以降下がり続け、連立崩壊時には14%にまで落ち込んだ。これには長引くウクライナ戦争への「支援疲れ」もみられる。
 活力を失っているドイツ社会に、往年の「豊かなドイツ」への回帰を呼びかけるAfDの訴えは、アメリカのMAGA(Make America Great Again)ムーブメントに相通ずるものがある。
 速報が引き金となったドイツの政治空白を極右勢力が埋めるのか、目が離せない。

*1 ドイツの憲法(基本法)には、財政赤字をGDPの0.35%までに抑える「債務ブレーキ条項」がある。2021年度のコロナ予算では「緊急事態」としてこの適用が免除されている。
*2 正式には首相が連邦議会に出した信任案が否決された場合、首相は大統領に議会の解散を求めることができる。今回については、大統領がすでに応じる姿勢を見せている。

【ジャーナリストプロフィール】
いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情などについて発信している。

IMG

「GALAC」2025年2月号

【表紙/旬の顔】浜辺美波
【THE PERSON】鈴木おさむ


【特集】阪神30年、能登1年 災害報道アップデート


「守りたい、だから 伝える」の取り組み/関西民放NHK連携プロジェクト事務局

〈コラム〉災害報道に求められる4つの“本”/近藤誠司


大災害におけるラジオの「共感放送」の必要性/大牟田智佐子


南海トラフ巨大地震をめぐる情報のウラ側/小沢慧一


101年前の記憶と教訓を生かすには/森 達也


【災害報道の実践から学ぶ】
南海トラフ地震に備える航空取材/笹村慶太
「福島モデル」の歩みとこれから/渡辺孝之
神戸独立局だからできた「多言語放送」/藤岡勇貴


地震映像アーカイブの一元化/松山秀明


ケーブルテレビの脆弱性と課題/服部洋之


【連載】
番組制作基礎講座/渡邊 悟
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田康宏
ダラクシーの秘密基地/ダラクシー賞選考委員会
イチオシ!配信コンテンツ/丸山友美
報道番組に喝! NEWS WATCHING/平岩 潤
国際報道CLOSE-UP!/伊藤友治
海外メディア最新事情[ウィーン]/稲木せつ子
GALAC NEWS/長井展光
GALAXY CREATORS[江上浩子]/永須智之
TV/RADIO/CM BEST&WORST
BOOK REVIEW『文藝春秋と政権構想』『満洲 難民感染都市-知られざる闘い-』


【ギャラクシー賞】
テレビ部門
ラジオ部門
CM部門
報道活動部門
マイベストTV賞

  1. 記事一覧へ