Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2024.07.03 UP

【Inter BEE CURATION】伊ペルージャのジャーナリズム祭 風刺画、メディア統制が話題

小林恭子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2024年7月号からの転載です。

目次
1.風刺画で亡命せざるを得なくなる人も

2.ロシアの戦争犯罪、メディア統制



イタリア中部ウンブリア州の州都、ペルージャ(人口約15万人)。2006年春以降、ほぼ毎年、「ペルージャ国際ジャーナリズム祭」が開催されてきた。発案は地元出身のジャーナリストたちである。世界中からジャーナリスト、学者、学生、テックエンジニア、メディア企業の代表、投資家などが集まるようになった。
 ジャーナリズム祭は5日間にわたって開催される。最初と最後はイタリア語のみだが、そのほかの3日間は英語をメインとして数百ものセッションが繰り広げられる。トピックは最新テクノロジーの動向からメディアの生き残り策、ジャーナリズムと人権、調査報道の事例、報道の自由など幅広い。ペルージャの旧市街に並ぶ複数のホテルが開催場所で、参加費は無料。ただそこに行けばいい。好きなセッションに出たり入ったりしながら、「知り合いの輪」ができていく。ジャーナリズム祭は特定の組織に所属せず、米慈善団体「クレイグ・ニューマン・フィランソロピーズ」、グーグルやマイクロソフトなどのテック企業などから運営資金の援助を得ている。今年は4月17日から21日まで開催され、筆者は2年ぶりに足を運んでみた。

1.風刺画で亡命せざるを得なくなる人も

「時事漫画の力」と題されたワークショップ(4月18日)に出てみた。案内役はイタリアの政治風刺画家エマヌエル・デル・ロッソ氏とオランダのチャード・ロヤード氏である。ロヤード氏は国際的な時事漫画組織「カートゥン・ムーブメント」の編集長だ。2015年1月、イスラム教預言者ムハンマドの風刺画を繰り返し掲載してきたフランスの風刺週刊誌『シャルリ・エブド』の事務所がイスラム教過激主義者らに襲撃される、衝撃的な事件が発生した。ロヤード氏はワークショップの参加者に襲撃事件後にムハンマドが謝罪する風刺画を1面に入れたシャルリ・エブドの画像を見せながら、漫画の世界的な影響力を紹介した。イラン、ニカラグア、中国、トルコ、ハンガリー、ポルトガルの風刺画家による作品が次々とプロジェクターの画面に映し出されていく。「この漫画家は今、投獄中」「この人は亡命した」などの説明が入った。権力を批判する風刺画家は国を出ざるを得なくなる。これが現実なのだ。
 さて、参加者も風刺画を描くことになった。デル・ロッソ氏によると、風刺画家は「強調」「戯画化」「象徴」をテクニックとして使う。参加者は戦車のスケッチがある紙と平和を象徴するハトが描かれた紙を渡された。色鉛筆を使ってこれを自分なりの風刺画にしていくのである。私もやってみたが、なかなかうまく行かない。ひとひねりができず、どうにも直接的な構図になってしまう。参加者の一人は、欧州で人気の国際的な歌の選手権「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」の歌手たちが戦車の上から顔を出し、道行く人に幸せのメッセージを送る様子を描いた。
 2022年2月、ロシアによる侵攻で始まったウクライナ戦争、翌23年10月、イスラム過激組織ハマスによるイスラエルへの攻撃を発端とするガザ紛争など、大きな軍事紛争が立て続けに勃発している。平和のメッセージを広げることができたら、どんなにいいだろう。

2.ロシアの戦争犯罪、メディア統制

多彩なテーマを扱うペルージャ国際ジャーナリズム祭だが、今年色濃く出たのが先の2つの紛争の影響や、ロシアやハンガリーなど強権政治によるメディア統制だ。
 今年2月にはロシア・プーチン政権を批判してきた反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死が大きな衝撃を広げたが、いまだ受刑中なのが人権活動家でジャーナリストのウラジーミル・カラムルザ氏だ。2023年4月、「ロシア軍についての偽情報を拡散し、(政府が指定する)『好ましくない組織』と活動を共にした」ため、国家反逆罪で有罪とされ、25年の禁固刑を下された。ロシアと英国の国籍を持つカラムルザ氏と拘禁について、私はニュース報道でうっすらと知っているだけだった。しかし、セッション「プーチンのクレムリンへの永遠の帰還――一体ロシアはどんな国になるのか」(20日)にワシントンからのリンクで参加した妻のエフゲニアさんの姿を見て、声を聞いて、今この瞬間に投獄されているカラムルザ氏の存在がリアルに迫ってきた。
 エフゲニアさんが夫と言葉を交わしたのは昨年12月。15分だけの電話での会話で、3人の子どもが5分ずつ話をしたという。「心理的な拷問に思えた」。平和が戻ってくるためには「ロシアを民主化するしかない」。ナワリヌイ氏の妻ユリアさんが夫の遺志を継いで活動を続けると表明したことについて聞かれ、エフゲニアさんは民主化に向けての「素晴らしい女性活動家たち」の存在に触れた。「女性が前面に出てきたことは多様化を示す。このような多様性が将来、構築されるロシアの市民社会に必要なのだと思う」。
 ジャーナリズム祭の模様はサイトから動画で視聴できる(https://www.journalismfestival.com/)。来年は4月9日から13日まで開催予定。皆さんも行ってみませんか。

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風刺画のセッションで参加者の風刺画を見るエマヌエル・デル・ロッソ氏(左)@IIaria Sofia Arcangeli #ijf24

【ジャーナリストプロフィール】
こばやし・ぎんこ メディアとネットの未来について原稿を執筆中。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)、『英国メディア史』(中公選書)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。新刊『なぜBBCだけが伝えられるのかー民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)。

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